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甘すぎる彼 5

Auteur: 煉彩
last update Dernière mise à jour: 2025-07-17 22:41:59

「先輩、おはようございます」

 その声は、吉田さんだ。

「おはようございます」

 ふんふんと鼻歌を歌いながらいつもより彼女は上機嫌のように感じられた。

「あの、先輩。私、大和さんから告白されて、今付き合っているんです。先輩と別れたばかりなのに、すみません。先輩には秘密にしておきたくなくて」

 すみませんと口を結ばせて目をうるうるさせているのに、演技にしか見えなかった。心では私のことを笑っているんだろう。

「うん。そうみたいだね。教えてくれてありがとう」

<私は別れて良かったよ>そんな風に答えればいいの?

 だけど、誰が聞いているかわからない状況で、自ら自分の評価を落としたくはない。

「私が大和さんのことを盗ったって怒ってるんですかぁ?私じゃないんです、大和さんが付き合おうって何度も言ってくれて。熱意に負けたって言うか……」

 だったら大和も早く<他に好きな子ができた>って言ってくれれば良かったのに。

「ああ、そうそう。今度、海外に旅行に行くんです。二泊三日ですけど。大和さんが計画をしてくれて。私、海外って行ったことがなかったら嬉しくて。大和さん、とっても頼りになる人なのに、どうして別れちゃったんですか?」

 クスクスと彼女が笑う。

 海外旅行?私にはそんな提案一度もなかった。

 それに、そのお金どこから――?

 お財布の管理は別々だったけれど、彼の浪費癖は知っている。

 だから二人で協力して少しずつお金を貯めようと提案をしたのに。

 もしかして――。

 この間引き出された、二人で貯めていたお金!?

 大和、自分の口座に移したの!?

 感情が表に出てしまったのか

「やだ、先輩!こわーい。そんなに怒らなくてもいいじゃないですかぁ!?」

 私の様子をブース内に聞こえるように、わざと大きな声で発言している彼女がいた。

 「ふざけないで……」

 抑えろ、私。

 ここで吉田さんを怒鳴ったところで、何もメリットがない。

 悔しい、涙が出そう。

 その時――。

「雨宮さん。ちょっと良いですか?」

 龍ヶ崎部長、海斗が後ろに立っていた。

「はい」

 小さな声で返事をした。

「数年前のある企業の申請書を探したいんですか。一緒に保管庫で探してもらえますか?記録管理は雨宮さんだって聞いたので」

 このやり取り、海斗に聞こえてたのかな。

 だから助け船を出してくれた?

「はい。わかりました
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